2010/12 |
「悪人列伝・近世編」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
日野富子・松永久秀・陶晴賢・宇喜多直家・松永忠直・徳川綱吉が収載されています。歴史小説を書くための土台となる人物資料研究で浮かび上がってきた人物像をそのまま世に出した史書です。いろんな説を列挙し、作者の想像は書かれていますが、読者にその選択を任せる書き方で、「もし、こうだったら・・・」とその後を描くのがとても面白い。
その中で特に惹かれたのが、東大寺大仏殿まで焼いた畿内の武将・松永久秀と、備前から、備中・播磨・美作まで勢力範囲を広げた宇喜多直家です。己しか信じられない下克上・実力第一の戦乱の世において、正攻法・反逆・下克上、あらゆる手を使って成り上がったある意味賢い武将。松永久秀は、勢力範囲が畿内だったことが災いし、後半生は強大勢力織田信長に翻弄されますが、織田と毛利の間に挟まれた両陣営の草刈り場でもあった地でしたたかに生きた宇喜多直家は面白いです。直家の史跡でも巡ってみたいな。
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2010/11 |
「花のあと」 藤沢周平 文春文庫 ★★
藤沢周平さんの短編集です。市井物が2/3で残りが武家物。藤沢周平さんの作品
は、どれもいいです。特にいいのは、やはり表題になった作品。映画化された作
品で、読んだことがある別の作品の映画化だと思って観ると、内容が違っていた
ので、あまりにもったいないので全部読まずに残しておいた藤沢作品の1つだと
思って購入しました。いやあいいです。藤沢作品については、それだけで十分な
感想だと思います。
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2010/11 |
「私の履歴書 経済人17」 日本経済新聞社 ★★★
日経を読んでる方は、皆さんご存知の超人気連載「私の履歴書」です。僕もよく読んでるのですが、この度は昭和56年初版の「経済人17」という単行本です。これを買った目的は、「黒沢酉蔵」さんの履歴書が載ってるから。他に、横山通夫・吉田忠雄・川勝傳・西川政一・弘世現さんの履歴書が収載されています。
明治の世、僕の曾祖母の実家が黒沢さんの学費を出していたので、そのことが載ってるかなと思って読んでみたくなりました。私の履歴書は、本人が書いてるので、どんな風に思ってたのかとても興味がありました。そして、僕の先祖の家の本にはその経緯が載ってるけど、黒沢さん自身はどういう経過と認識していたのだろうと。
結果はほとんど同じでした。ただ間にパトロンしてた田中正造さんに頼まれてのもので、黒子に徹していたので、黒沢さんがその資金の出所を知ったのは、ずいぶん後になってからだったようです。
我が家とはそれほど濃い関係とは言えないのに、母がいつも雪印を買えと言うのだから、日本という国は地縁血縁が強いようです。
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2010/10 |
「摂丹の霧」 家村耕 文芸社 ★★★
清和源氏の祖、源満仲の直系頼国が、多田の隣接地・能勢に居住し始めた平安時代から明治まで、同地を領した豪族能勢氏の織田豊臣時代を描いた小説です。主人公は、能勢氏中興の祖能勢頼次。
伝承ゆえ異説多く定かではありませんが、三男として生まれたので仏門に入りましたが、兄2人の戦死により還属して家督を次ぐ。丹波衆同様明智光秀に仕えたので、本能寺の変後秀吉配下に攻められ、丸山城では防ぎに弱いので、妙見山山頂に終の城を築く。結局敗退し地方流浪を強いられ、関ヶ原以前に徳川家康旗本として仕え、その後の戦で功を上げ、旧領を安堵される。仏門の縁で、妙見山の広大な山域を日蓮宗に寄進し、日蓮宗霊場が作られていく。このような人生を送った方だそうです。
我が家から30分もあれば、北摂の山城のたくさんあった地域に入りますが、そこで暮らした豪族の姿を感じたくて調べていたら行き当たった小説です。もう絶版になっていた本ですが、運良く手に入れることができました。次読もうと、「平将門」を読んでいるとき、能勢氏の本拠地・地黄を探索していて、気になった酒屋さんを写真に収めていると、店頭に小説の一部が書かれているのを見つけました。光秀と妻の別れの場面で、かなり惹かれました。店内の目立つところに「光秀はしる」の赤い本が高く積まれていました。
お酒に縁のない僕ですが、店内に入り、「この本、売ってるのですか?」と問うと、なんと相対してくれた店主さん自身が書かれた本で、それがなんとこの「摂丹の霧」の著者本人でした。宮本輝さん以来2人目の作家さんとの出会いでした。もちろん購入し、サインも頂きました。
一地方豪族が激動の舞台の活躍が描かれた書ですが、肩肘張らない文体が気に入りました。配下から謀反が続いた信長の猜疑心に溢れた行動、丹波・京都で親しまれた光秀の描き方、僕の琴線に触れる人物の描き方です。
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2010/9 |
「平将門」上・中・下 海音寺潮五郎 新潮文庫 ★★★
天皇が政治の中心におり、藤原氏が側近公家として日本を動かしていた平安時代が終わったのは、平清盛が武家として公家を上回る力をつけほころび始めたことからで、その帰趨が源頼朝による鎌倉幕府成立に至ります。この時代が、「源平盛衰記」の時代。
後醍醐天皇・足利尊氏・楠木正成・新田義貞を主役に縦横無尽に駆け回り、鎌倉幕府が倒れ、室町幕府が成立するのが、「太平記」の時代です。
この両時代の戦記は、戦国時代の実力万能・下克上・職業軍人の大兵力対決とは違い、僕にとってとても魅力があります。国内最強を誇った関東武士団が天下をとる「1192作ろう鎌倉幕府」に先立つこと250年。この書の主人公・平将門が、京都中央政府派遣の国守を追い出し、関東八州を束ね独立した時期がありました。
同時期に西国瀬戸内海では、藤原純友が海賊の頭領として京都に攻め上がり、将門が戦死しなければ、京都朝廷が滅んでいたかも知れない時代でした。江戸幕府が滅び、武家政権から再び天皇中心中央集権の時代になり、平将門は逆臣の代名詞になりますが、純友も将門も時代が作った主人公であったと思います。
戦にめっぽう強かった将門は、戦死した後も各地に首塚が残り、少し前の同時代を生きた菅原道真とともに、雷神となり、後世の為政者を祟りました。今の唯物・科学の時代ではなく、祟り・呪い・巫女・・・のごく自然に怖れ鎮める時代は、寺社巡り・謂れ読みが趣味の僕には、とても魅力的です。
平将門と藤原純友をしっかり読んでみようと、文体が好きな海音寺潮五郎さんのを読んでみました。戦記とともに、京都朝廷政府の搾取や自ら土地を開墾して作り、農繁期には戦火を交えない地方豪族の生き方など、時代背景が分かりやすく描かれ、とても読みやすくまたとても面白い作品でした。
あまりに面白く、将門に気持ちが入ってしまい、将門を討つことになる俵藤太との一戦が始まると、読むスピードが一気に落ちてしまいました。僕の中で、将門の延命を図りました。でも将門の最後の場面は、あっさりと簡潔に書かれて終わり、すぐに将門の太郎の関東脱出劇に物語は移ります。将門の太郎を追討してきた俵藤太の将門に対する畏敬の念が見え、とても清々しい終わり方になっています。
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2010/8 |
「戦国山城を攻略する」 森本基嗣 吉備人出版
「岡山の山城を歩く」 森本基嗣 吉備人出版
下記の「美作太平記」に書いた事情により、買い求めたものです。美作・備前・備中の山城の位置・登城口・登城時間・遺構などが書かれた実用書で、これから活躍しそうです。
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2010/8 |
「新釈・美作太平記」 三好基之 山陽新聞社 ★★★
★3つの最高得点にしていますが、これは「僕にとって」だけです。というのも、昨年末に母が亡くなり、長男の僕が父が初代の分家である我が家の頭(そんなええもんでもないが・・・)になったので、先祖のことをちゃんと調べてみる気になりました。
父の実家は、農地改革で一気に小さくなったが元庄屋で、それでも学校数個分の農地を持った北関東の農家です。江戸時代は、とんでもなく大きな豪農で、明治になり鉄道を敷くことになったとき、土地を無償提供し2つの駅と線路がその所有地を通っていたそうです。これだけの豪農は、元豪族であった可能性が高く、紋が武田信玄と同じ武田菱なので、室町・戦国時代は源氏武田系の武士だったのかもしれません。
片や母の実家は北関東の田沼にあり、老中田沼意次の先祖の田沼家という豪族の家老でした。昔お城のあったところは神社になり、武家屋敷筋だったと思われる筋で大勢の職人を使って下駄屋さんをしていた。当主である僕の爺さんは、番頭さんに商売を任せ、近衛兵の隊長として皇居に詰めていました。
僕の婆ちゃんの実家は材木屋で、その母親の実家は、平将門を伐った俵(田原)藤太秀郷の末の佐野氏の家老でした。佐野家は唐沢山という山に難攻不落の山城を持ち、越後の上杉謙信に数度攻められましたが、一度も落ちませんでした。徳川の世になっても家を保ちました。唐沢山は、広大な関東平野が尽きる場所にあり、とても見晴らしのいい場所です。江戸時代初期、江戸の大火をいち早く見つけた佐野家は、「すわ戦火か」と、武装した兵団を組んで江戸に一番乗りしました。ところが、単なる火事でした。あまりの速さで武装兵を送り込んできた佐野家に肝を冷やした幕府は、佐野家を改易してします。その時、多くの大名がそうしたように、信頼のおける家老を元の地に帰農させて残すように、先祖は帰農し北関東に残り、一定の影響力を保とうとしました。
僕も子供の頃数度、正月とお盆の親戚の集まりに行ったことがありますが、この家は農家なんだけど、小高い山に家があります。麓に門があり、そこから10分ほど歩かないと家にたどり着けませんでした。その時は、なんて不便なんだろうと思いました。現在の当主は、日頃は平地の家に住んでいます。
家系の歴史を知った今は、徳川幕府が倒れ、また戦乱の世が来るときに備え、佐野家の戻る城場として考えていたとわかります。この家は、江戸末期から農業の他に呉服商もするようになり、それで財をなし、明治の世になると、銀行・鉄道・肥料・・・など多く企業した大立者を出しました。田中正造という有名な政治家のパトロンであり、正造さんが明治天皇御幸に直接直訴して衆議院議員の職を失うと、次に立ちました。
この家は、蔵や墓が残り、残された文献などで家系の流れが分かっています。先祖は、美作菅家党という菅原道真の末で武家になった美作の武士団の祖、三穂太郎です。文献では1350年に美作を追われ、同族である佐野家を頼り、北関東に下ったとあります。那岐山山頂に城を持っていたとあり、大国の伯耆(鳥取県)・播磨(兵庫県南西部)・備前(岡山県東南部)・備中(岡山県西南部)・備後(広島県)に囲まれた地なので、破れて落城したのでしょう。
そういう関係で、美作菅家党を中心に書かれた長い美作の闘争の歴史が書かれたこの本を手にしました。
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2010/7 |
「那岐山への旅」 高井薫 吉備人出版
僕の両親は、北関東の生まれですが、母方の先祖は、下野・唐沢山城主・佐野氏に仕えた武士でした。江戸時代になり、江戸が丸見えの唐沢山城を危険視した幕府によって、佐野氏は改易され、その時先祖は帰農したそうです。
僕の子供の頃、盆と正月に一門が一堂に会する行事に何度か親に連れられて行ったことがあります。大きな耕作地を持ち、山1つが家で、屋敷は中腹に建てられていました。素封家というやつです。
この家は、明治の世、呉服の行商から始まって、鉄道会社・銀行・肥料会社・・・と北関東で財をなしました。日本で始めての公害訴訟と言われている足尾銅山事件で有名な田中正造翁に、資金援助をしました。正造さんが明治天皇に直訴したので衆議院議員を辞めたので、次の一期衆議院議員で過ごしました。国や自治体の奨学金が今のようになかったので、育英に熱心で、地域の秀才を大学や海外留学させました。そんな中に、雪印の創業者黒沢酉蔵もいます。
この家系中興の祖の3回忌に、翁の生涯と家系の流れが書かれた本が作られました。親戚以外には何の意味もない本なので、非売品で血のつながる子孫と関係者のみに配られました。
昭和になって、再び新たな資料を書き加えた現代語訳も作られました。この2冊は、母の一番の宝物でした。僕が中学の時、その本を強制的に読まされて、「私が死んだら、あんたにあげるから大切にしなさい」と言われました。ようわからん昔言葉で書かれた内容なので、本好きの僕でも苦労しました。なんとなく、スゴイ人がいたんだってことはわかりました。
昨年末に母が亡くなり、父もすでに他界してるので、今年に入り実家の後片付けし始めました。真っ先に探したのが、この本です。中学の時聞いたことなのに、母に頼まれたそのことを鮮明に思い出しました。本は、母の本棚ですぐに見つかりました。そして、じっくり読んでみました。
母からは、「菅公の子孫だ」と聞かされていましたが、本姓は菅原、菅公の子孫で美作・名木山の城主・美穂氏でした。戦に敗れ、同じ菅公子孫の佐野家を頼ったようです。
あまりに昔のことなので、いろいろ調べてみました。美作に、昔名木山と言ってた現在の那岐山がありました。山頂に山城があったことも、多くの資料に載っていました。美穂氏を祖とし「美作菅家」一門として、鎌倉時代から南北朝室町時代に掛けて美作に大きな勢力を持っていたこと。下克上・戦国の世になり、周辺の毛利・尼子・赤松・宇喜多などの大勢力の草刈り場になり、破れていったこと。
いろんなことがわかりました。この本は、調べていった本の1冊です。「那岐山」の謂れが、伊佐那岐からくること。伊佐那美や天照大神・須佐之男の命など、神代の世界の話。「美作菅家」の祖となる三穂太郎にまつわる伝説。いろんな面白いことが書いてありました。
ただ、僕のような那岐山に特別の興味を持ってる人でないと、退屈な本でしょう。
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2010/6 |
「悪人列伝・中世編」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
悪人列伝シリーズ第2弾。藤原兼家・梶原景時・北条政子・北条高時・高師直・足利義満。
足利尊氏と行動を共にしていた参謀・高師直のことが、ここで読めたのが、僕には収穫でした。尊氏の日に影に動きながら、部下というわけではなく友軍の位置です。自身も家柄の良い豪族だから、実力からして尊氏と入れ替わっても不思議ではない。でも、尊氏を頭に行動したのは、自分と大敗を喫しても何故か人をひきつけ持ち直す尊氏を客観的に比べての事だろうと思う。
高師直あっての室町幕府成立であり、太平記である。最期は、わが町で首をはねられてしまうが、僕にはとても魅力的な人物に映ります。
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2010/6 |
「悪人列伝・古代編」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
海音寺さんの歴史小説は、書き方が少し変わっています。歴史小説家は、全くのウソは書けないので、膨大な資料を整理し読み込みます。歴史上の人物の話なので、後世の為政者によって、上手に書き換えられたり、当時の為政者の顔色を伺いながらの書き物であったるするわけです。その真否を見分けたり、諸説から1つを選ぶので、作者によって登場人物が同じ人なのに、大きく違うこともあります。海音寺さんの書き方は、小説でありながら、1つの事件に対し、海音寺さんが選んだ説の他の説を併記されます。この手法が、どうも僕の興味をそそります。「へえ、そうなんや」って。
趣味の寺社の謂れ読みをしていると、歴史の教科書で習った事と、大きく違う記述に出会います。というより、そういうのだらけです。実際に会いともに暮らした先祖から伝わる地元の方の目線と、歴史を国の大きな流れと客観的事実で捉える国との違いです。
今を生きる僕らでも、前の首相の良い面を見る人と、そうでない面で評価する人では、大きく評価が違います。これを併記してくれる海音寺さんという作家は、とても貴重な存在でした。
この悪人列伝は、小説を書くための資料を、小説として仕上げないまま資料として、いろんな文献を併記したシリーズです。「僕はこう考えるけどね」と前置きしてるから、単なる資料でもないです。
蘇我入鹿・弓削道鏡・藤原薬子・伴大納言・平将門・藤原純友。面白いです。この中から、平将門と藤原純友が、きちんとした小説として世に出ました。
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2010/5 |
「パパはロクデナシ」 上村佑 宝島社 ★
相変わらず上村さんの小説は愉快で痛快です。ある日突然、自宅に知らんおっさんが現れます。そして、そのおっさんが実の親父でした。しかもそのおっさん、殺人罪でムショから出てきたばかり。しかも母親がベタぼれしてる。
やることなすこと、無茶苦茶で粗暴で豪快。でも憎めない。母親が、「無茶苦茶な人だけど、男の子にはとても魅力的な人だから・・・」と言ってた意味が、身体がガンガン感じてる。主人公の僕の悩みが、どんどんこのおっさんによって剥がされていく。実に面白いです。これも処女作同様映画化されるかもしれない。
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2010/5 |
「親ばか力」 辻井いつ子 アスコム ★★
昨年、アメリカのピアノコンクールで優勝し、一躍時の人になった盲目のピアニスト辻井伸行さんのお母さんが書かれた本です。
生まれた時から目の見えないわが子を持ち、「自分への責め」「生きていく希望」「子供の将来への不安と葛藤、そして希望」・・・いろんな経験をされ、子供の見せる一面を希望と捉え、邁進するパワー・・・只々すごいなという感想を持ちました。
息子さんを育てた底流に流れていたものを、「子供の才能を引き出す10の法則」にまとめておられますが、その1つ1つが、僕の子育てに対する考え方や接し方と一緒だったので、「やっぱり、こうだよなあ」と意を強くしました。
様々な経験を、サラッと事もなげに書かれていますが、実際自分に置き換えたら、とても僕には出来ないなということです。が、「このお母さんだから、できたんだ」と斜め目線で読まず、素直にまっすぐ捉えると、子育てに限らず、とても参考になり、人生の大きな柱として寄りどころにしてもいいことが分かると思います。気軽に読めますが、とてもいい本でした。
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2010/4 |
「武将列伝・江戸篇」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
武将列伝シリーズの最終稿。真田幸村・立花一族・徳川家光・西郷隆盛・勝海舟の5人です。徳川幕藩体制を確立させた3代将軍家光が、意外に無能であったり、それぞれの人物の知らなかった一面が見れて楽しい読書でした。
一連の武将列伝シリーズを読み終え、僕はやはり戦国が好きだなと再認識しました。鎌倉幕府成立前後の源平盛衰記、室町幕府に至る太平記、室町時代後半から江戸幕府成立までの戦国時代、これらの時代に生き、志半ばで散っていった男たちの生き様が魅力的に映ります。男の死に場所があった時代だな。
この稿では、好きな真田幸村が面白く、知らなかった九州北部の立花一族の秀吉時代前後の盛衰が素晴らしかった。もし僕の生活圏が九州北部なら、立花一族の旧址を訪ねるバイク旅に駆り立てられただろう。
海音寺氏のこのシリーズを読み終えてしまったので、同氏の「悪人列伝」シリーズを全巻大人買いしてしまいました。間に毛色の変わった別読み物を挟んで、また海音寺氏に戻ってきたいと思います。
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2010/3 |
「よくばらない」 鎌田實 PHP研究所
家内が東京での仕事の会合で鎌田先生の講演を聞いてきた時、会場で買ってきた本です。もう1冊「へこたれない」も買ったそうで、こちらは翌日会った長男のフィアンセさんにプレゼントしたようです。裏表紙にサインしてもらったそうです。
かつての日本人が総じてそうだったように、鎌田先生自身が家族を顧みず猛烈に働いていたそうです。手腕と買われ信州の病院に職場を変えた頃から、考え方を変え、その病院を見事に立て直し、ゆったり患者さんに寄りそうことで多くの方に憩いを与えておられる。「よくばらない」「ゆるす」・・・の生き方により、お子さんから嫌われていたご自身も救われたという体験から書かれている本です。
人類は、「もっと、もっと」の文化で成長・進化してきたが、ここ最近の急進化の行き着く先は果たして幸せな世界なのだろうか?と疑問を持つ方が増えて来ていると思う。「勝ち組・負け組」に代表される経済面からだけのランキングについて行けない人の農業・漁業・林業へのIターンが増えてきているそうな。横にいる人を蹴落として頭を出す生き方から、隣の人と協力しあって生活する共生の生き方への回帰が医学面からも良いことだという、先生の考え方が底辺に流れているように思います。
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2010/3 |
「武将列伝 源平編」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
源平盛衰記・太平記の世界です。三男であった源頼朝の兄である猛将「悪源太義平」、「平家にあらずんば人であらず」の平家隆盛を築いた「平清盛」、初の武家政権鎌倉幕府を作った「源頼朝」、頼朝と共に平家を打ち破った源氏本流の「木曾義仲」、頼朝の弟の人気者「源義経」、南北朝時代・室町幕府の成立時代の役者後醍醐天皇への忠誠を貫き通した義臣「楠木正成」の生涯を、史実を忠実に折り重ねている。この時代の書物は、後世の為政者の影響をモロに受けているものが多く諸説入り乱れているが、その真贋をプロの筆者の目で書かれている。小説なら1つの説でしか書けないけれど、この武将列伝シリーズは諸説並べて書かれているので、別の観点で面白く読めました。
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2010/2 |
「蓼沼丈吉翁追悼録 50周年記念誌1961 附母堂智恵子刀自の面影」 篠崎源三編集 ★★★
曾祖母の実家の中興の祖丈吉さんの記念誌です。三回忌記念誌に、祖は僕が聞いていた菅原道真流れとともに藤原氏流れということも書いてありましたが、どうやら菅公流れのようです。岡山県の美作の豪族だったが、毛利氏に滅ぼされて北関東に流れて土着したとのこと。室町幕府の力の衰えとともに統制が取れなくなり、地方豪族の群雄割拠が始まり、やがて有力大名が育ち、他の豪族の系列化が進む過程で、山陰の尼子氏と西中国の大内氏の勢力の草刈り場になった岡山県。同じような立場だった毛利氏が台頭し大内氏を倒し、勢力範囲が東進した過程で敗れ去ったのでしょう。
三回忌の方は、交流のあった知己や関係者の想い出投稿を編集した感がありましたが、50周年誌は蓼沼家に残っていた資料を中心に、その偉業を物語風ではなく資料風に編纂した書でした。
この僕の、というより我が家の宝物を次世代に伝えていこうと、複製本を制作することにしました。
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2010/2 |
「蓼沼丈吉翁追悼録 附母堂智恵子刀自の面影」 中塚栄次郎編集 ★★★
私の母が昨年末に亡くなり両親がこの世にいなくなりました。以来毎朝実家を片付ける日々が続いていますが、一番最初に探したのがこの本です。母の実家の本家の明治中興の祖4代目蓼沼丈吉翁の三回忌記念に出版された書物です。翁の伝記と様々な方から集めた翁の想い出が載っています。編集者は翁が力を注いでいた育英事業・蓼沼慈善団(後の三好園)の理事長さんです。
中学生の頃、母に教えられて初めて読みました。本を開いた最初の序が、歴史の教科書でしかしらなかった大隈重信の親しみを込めた言葉でした。丈吉さんは、家業の農業・林業の傍ら呉服商で財の基礎を築き、鉄道・銀行・繊維・肥料・・・と多くの会社を設立し、足尾鉱毒被害を告発救済運動を起こした衆議院議員田中正造さんのパトロンでもありました。そのつながりで学業資金の面倒をみた黒澤酉蔵は北海道に渡り雪印を創業しました。正造さんが天皇の御幸に被害を直訴し衆議院議員を辞職した後、推されて衆議院議員になりました。
僕の子供の頃、醤油は正田醤油のキッコーマン、乳製品は雪印と、母から蓼沼家の関係の会社の製品を買ってくるように言われた記憶があります。子供ながらにこの本を読んで、自分の中に流れている血に自信が湧き、立派な先祖に顔向けできないようなことは出来ないなと思ったものです。
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2010/1 |
「武将列伝 戦国爛熟篇」 海音寺潮五郎 文春文庫 ★
歴史小説というより、歴史小説家が小説の下地に集める資料を時系列に並び替えて、その人となりを知らしめようとした書物と感じました。1冊に短編風に数人集めた武将列伝シリーズの1冊です。竹中半兵衛・大友宗麟・山中鹿之助・明智光秀・武田勝頼・徳川家康・前田利家の7人が載っています。
僕の好きな明智光秀がどのように書かれているか注目したのですが、秀吉の世に書かれ今の光秀のイメージにつながっている反逆者とは違う紐解きがされていました。やはり海音寺さんのようなしっかり資料を集めてできるだけ史実に忠実にあろうとする小説家にも、反逆者光秀のイメージは違うのでしょう。
反面、キリシタン大名のイメージを持っていた大友宗麟は、僕のいだいていたイメージと随分違う人として書かれていました。戦国大名は、大なり小なり力に任せた無茶難題・ゴリ押しは常ですが、大友さんのそれは相当だったようです。でも戦上手といざという時の思い切りがあれば、後世大きな名を残すようです。
このシリーズ、肩の荷が下りた潮五郎さんの軽やかな文体の好印象と共に、とても読みやすく、小説じゃないので劇的な展開が用意されているわけじゃないけど、引き込まれます。武将その人の魅力なんでしょう。
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2010/1 |
「古地図で見る阪神間の地名」 大国正美 ★★
NHKで始まったタモリさんが江戸古地図を頼りに歩く番組に影響されて買った本です。一気に読めるページ数ですが、2ヶ月以上掛けて読み終えました。感想は「実に面白い」の一言です。一昨年夏にバイクの免許を取り250ccバイクを手に入れてから、元々興味があった旧街道・寺社・旧家巡りに更に傾斜しているところにこの本を手に入れたものだから、読んでは実際にその場所に行って見聞を広めるの繰り返しになってしまった。朝の早い夏場なら朝飯前の距離で1日遊んだ気分になれます。地元の再発見に持ってこいの本です。
古地図を頼りに地名の由来や寺社、そこで脈々と続けられてきた市井の人々の生活が、多数の文献から学術的に語られている。物語的ではないところが、こちらの想像を更にふくらませます。近隣のこの手の本を読みたくなってしまいました。
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